クリスマス・イブのお話

28. December, 2015 • 0 Comments

とんとん。旅装束の若い夫婦が戸をたたきました。しかし、その家は飲めや歌えやの大騒ぎで、何度戸を叩かれても誰も気がつきませんでした。

どこの家も客を迎えて賑わっていました。ふたりはこの町の親戚とは縁遠くて、頼れる家がありませんでした。妻は身ごもっていて、野宿するわけにもいきませんでした。そこで町中の家々を宿を求めて訪ねまわっていたのでした。

この時代、お金を払って泊まるような宿は、数多くありませんでした。そのような宿があっても、しばしばいかがわしい商売の場所になっていたこともあって、旅人が見知らぬ人の家に宿を求めることは普通のことでした。それに、その昔、信仰の父アブラハムが見知らぬ旅人を迎え入れ、気づかずに天使をもてなしたことが、人々の生活の規範になっていました。見知らぬ旅人をよき知らせをもたらす天使を迎えるようにして歓待する慣習があったのです。

しかし、その日、若い夫婦を迎え入れる家は、なかなか見つかりませんでした。

二人は、日が暮れて急に風の冷たさを感じながら、楽しげな声がもれてくる賑やかな家をあきらめ、隣りの静かな家の戸をたたきました。とんとん。「誰だい?」「宿を貸していただけないでしょうか。」「よそに行っておくれ。悪いけれどね、お客を迎えるどころじゃないんだよ。今夜も仕事で忙しいんだ。こんなに働いても苦しい暮らしだっていうのに、今度はまた、税金の取りはぐれがないようにって、登録して数字を割り当てられるっていうんだからね。他をあたっておくれ。」

夫婦はあきらめて、また別の家の戸をたたきました。とんとん。とんとん。「誰だい?」「住民登録のために遠くから旅してきた者です。宿を貸していただけないでしょうか。」「おや、シリアの方のなまりだね。あっちは異教徒がたくさんいるというじゃないか。ローマに反乱を起こした連中もいるというし。うっかりテロリストなんぞに宿を貸して、後でにらまれたら困るからね。お断りだよ。」

人々はもう長いこと外国の軍隊の占領下に置かれて、町を歩ければ持ち物を検査され、罵声を浴びせられ、時には暴力を振るわれることもありました。税金をむしり取られ、遠い昔から受け継いできた信仰のゆえに迫害を受け、希望をもって生きることが困難な日々を送っていました。多くの人はあきらめの気持ちで生きていました。夫婦に宿を貸すことを断った人たちは、すっかり信仰を失っていたわけではありませんでした。神様は民の叫びを聞いて、自分たちを顧りみてくださる、メシアを送ってくださると心のどこかで信じていたのでした。しかし、まさかその待ち望んでいたメシアが自分の家に宿を求めて来られるとは考えられなかったのでした。ましてや、外国なまりで話す田舎者の旅人によってもたらされるとは想像もできなかったのでした。

夫婦はあきらめて、別の家の戸をたたきました。とんとん。「すみません。妻が身重で、困っているんです。どうか宿を貸してください。」二人は知りませんでしたが、その家はベツレヘムの町長の家でした。ドアを開けて出てきた立派な身なりの人がいきなり話し始めました。「これはまさに町全体で連携して取り組まなければならない課題だね。人口問題として言えば、我々は見知らぬ旅人を受け入れる前に、女性の活躍であり、高齢者の活躍であり、出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもある。同時に、この見知らぬ旅人の問題においては、我が町は我が町としての責任を果たしていきたいと考えている。それはまさに見知らぬ旅人を生み出す土壌そのものを変えていくために、我が町としては貢献をしていきたいのです。」

二人はこの演説をきかされてすっかり気持ちをくじかれ、もう宿を見つけることをあきらめ、風をしのぐことができる洞窟はないかと町外れに向かいました。夜のとばりに包まれつつある野原を歩いて行くと、メェ~っと山羊や羊の鳴き声が聞こえてきました。引き寄せられるように歩いていくと、家がありました。まばゆい光のあふれる町の家々を見てきた目には、そのうらぶれた佇まいは何とも悲しげで、そこだけ闇が濃くなっているように見えました。しかし、二人は最後の望みを託して、その家の戸をたたきました。とんとん。

それは年老いた羊飼いの家でした。丘の傾斜と自然の洞窟を利用して作られていて、ドアを入ってすぐのところには家畜の休む場所があり、その奥に人間の寝る小さなスペースがありました。羊飼いは、神の民のもっとも古い職業でありながら、泥棒商売などと呼ばれて差別されていました。学がないとか、掟を守っていないとか、汚い、臭いなどと言われ、のけ者にされていて、体の不自由な身には不便でしたが町の外に住んでいたのです。

「夜分にすみません。遠くから旅をしてきたのですが、宿をかしていただけないでしょうか。妻が身重で困っているのです。」

ドアが開かれました。思いがけず暖かな空気が流れてきました。「ランプも点せないような貧しい家だけれど、動物たちが一緒だからあったかいよ。さあ入りな。寒かったろう。」二人は招き入れられました。

その夜、赤ちゃんが生まれました。まばゆい星が闇の中に現れたかのようでした。その泣き声は天使が吹くラッパの音のようでした。若い夫婦も、宿を貸した家の人も、心に喜びがあふれ、平安に満たされ、身体の疲れも人々から受けてきた冷たい仕打ちも忘れて、命の源なる神への賛美を高らかに歌いました。「この子の名はイエス(=神は救い)と名付けましょう。」

☆ 祈りましょう

慈しみ深い神よ、あなたは悔い改めを宣べ、救いの道を備えるため、預言者たちを遣わされました。その警告を心にとめて罪を捨てる恵みをあたえ、わたしたちの心を清めてみ住まいを備えさせ、贖い主イエス・キリストの来臨を喜びをもって迎えることができますように。主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン

永遠の神よ、この日の夜の静けさの中であなたは、救いの光によって世界の暗闇を引き裂くため、あなたの全能のみ言葉を遣わされました。私たちが切望している平和をこの地上に与え、私たちの心を天の喜びで満たしてください。私たちの救い主イエス・キリストによって。アーメン

Leave a comment